ラフランス進化論——バターの洋梨とメザシの和梨1

洋梨といえば、ねっとりした果肉と香水にも似た芳しい香りがおおきな特徴です。一方、和梨の特徴は、しゃりしゃりした食感とさっぱりしたジューシーな果肉にあります。

一見別々の果物のようにもみえますが、じつは意外なことに両方ともルーツは同じ。もともと中国原産の中国梨が、それぞれヨーロッパと日本にわたった後、枝分かれしたものといわれています。

それにしてももともと同じルーツをもつ果物だというのに見た目はもちろん食感から味にいたるまでなぜこれほど違ってしまったのでしょうか。

あくまでも推測ですが、理由は気候風土など環境の違いにあったのかもしれません。なかでも考えられる最大の要因は土壌の違いです。土壌に含まれる成分の違いが、そこに生育する植物の化学組成に影響をあたえ、結果として種の変化を促したであろうことは想像に難くありません。

もうひとつ考えられる要因は、人間の嗜好です。野菜や果物は、それを食べる人間の好みに合わせて変化してきました。まずいものは捨てられ、おいしいものは次の世代へと引き継がれてきたのです。その結果、人間の嗜好に合う品種だけが生き残ることになったというわけです。

そういえば、洋梨のあのねっとり感はバターを思わせますが、バターはいうまでもなくヨーロッパ人の好む食べ物のひとつですよね。

では、和梨のあのしゃりしゃり感はどういった理由で生まれてきたのでしょうか。このしゃりしゃり感は、石細胞と呼ばれる和梨独特の細胞によるものなのですが、なぜこのような石細胞が和梨だけに生じたのか、文献にも当たってみましたが、どうも明確な理由はみつけられませんでした。もしかしたら、これはめざしなどの小魚をばりばり食べる日本人ならばこそ好まれた食感なのかもーー。まあここまでくるとかなりこじつけめいてしまいますが…。

しかし、おもしろいのは環境によって変わるのはなにも果物ばかりではないということです。

以前、テレビでアメリカに住む日系人の特集をやっていましたが、そこに出てきた日系一世のお年寄りが、その顔といい雰囲気といい日本人というよりむしろアメリカ人に近いことに驚いたことがあります。日系一世ですからもちろん血統的には純粋な日本人のはずなのに、その顔といい雰囲気といいどうみてもアメリカ人にしか見えないのです。

それとは逆に、日本に長く住んでいる外国人の顔がなんとなく日本人っぽくなっていることに驚くこともあります。人間の場合はおそらく食べ物の影響でしょう。特定の国の食べ物を何年も食べていれば体内の組成もやがてその国の食べ物に置き換わっていくわけですから、何年かすると顔つきまで変わってしまうのも当然なのかもしれません。

いずれにしても人間でさえ数十年単位で変化するわけですから、ましてや原産地を遠く離れ、2000年以上も経った梨が、ご先祖様とは似ても似つかないものへと変化するのは別段不思議でもなんでもないのかもしれませんね。